【10月】娘への愛も野菜もたっぷり!ラーメン好きもうならせる「コク旨ちゃんぽん」
ラーメン禁止令を言い渡されて、はや5カ月。俺の我慢はそろそろ限界に近づいていた。週に二度は通っていたラーメン屋の前を通りすぎるたび、わびしい秋の風が俺の心を吹き抜けていく。道端に咲く秋桜(コスモス)のはかなさにも、涙が出そうだ。最近の課長、なんだか背中がしょぼくれていますね、と部下が言うのは、単に痩せたからだけではあるまい。
しかし、しかしだ。今日の俺は、久しぶりに心が浮き立っていた。財布をにぎりしめて向かうはやよい軒。ここのコク旨ちゃんぽんなら食べていいと、ついに娘からお許しが出たのである。ちゃんぽんとはいえ、麺は麺! 今の俺には祝福以外の何物でもない。
そもそもどうして、家族の次に愛するラーメンを奪われることになったのか。発端は、俺の体重が過去最高を叩き出したこと。スラックスの上にでっぷりと乗った腹を見て、中3になったばかりの娘が悲鳴をあげて、忌々しそうにのたまった。「来年の春までにその腹をどうにかしなきゃ、卒業式には出席させないからね!」。……なんと、無慈悲な!
かくして試練の日々が始まった。ラーメンをやめるだけで、こんなにも体重が落ちるものかと、やる気に満ちていたのは最初だけ。停滞期とやらに陥り、結果が出ないのに我慢だけを強いられ、俺の心は灰茶色にくすんでいった。見かねた妻が、娘に言った。たまには息抜きさせないと、春までもたないよ、と。その結果が、今日である。
とはいえ、正直、ナメていた。部活帰りにときどき友達と食べるという娘いわく「野菜たっぷりだし、スープも体によさそうな味がする」というコク旨ちゃんぽん。俺の望むパンチの強さには届かないだろう、と。ところがスープを一口飲んで、そのコクの深さに驚かされた。鶏の白湯ガラに野菜と魚介の出汁が効いて、いくらでも飲めてしまう軽さと、胃に沈みこむ重さが、絶妙に同居している。麺はもちもちで、スープとよくからみ、野菜と一緒に食べれば歯ごたえもじゅうぶん。別添の辛子味噌で味変までさせてくれる心意気。最高じゃないか!
秋桜を見ても、もう切なくなんてならない。なんてったって、花言葉は愛情。この苦行の日々はすべて、家族との愛の証だと思えば耐えられる。灰茶だって見方を変えれば、艶やかな栗色。秋! なんと美しく尊い季節だろう!
娘の卒業式まで、折り返し地点。この喜びをかみしめながら、俺は明日からまたダイエットに励むだろう。でも一度くらい、部活帰りの娘を迎えに行って、一緒に食べたいものである。
作=橘もも イラスト=畠山モグ