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やよい軒の秘密 2

ごめんなさい。混雑時も「焼きたて」はやめられません。

 お昼時のピークタイム。お店の中がどんなに忙しくなっても、やよい軒が絶対に譲らない頑固なこだわりがあります。それが、ひそかに多くのファンを持つ玉子焼きや焼魚を「オーダーが入ってから焼き始める」ということです。効率やスピードが求められる現代のファストフードやファミリーレストランの常識から見れば、それは少し不器用な選択かもしれません。しかし、日本の食文化が古来より大切にしてきた「作りたての美味しさを届ける」という誠実さは、客席の向こうのキッチンで今も脈々と息づいています。これはシンプルだからごまかしが利かない、「焼きたて」という最高の贅沢に込められた情熱の物語です。

 私たちが提供する定食の主役を張る焼魚、そしてどこかホッとする味わいの玉子焼き。これらのメニューは大変申し訳ないのですが、提供までお時間をいただいています。なぜなら、混雑している時間帯であってもあらかじめ焼き置きをしないで、ご注文をいただいてから初めて魚を火にかけ、卵液をフライパンに流し込むからです。お客様を少しお待たせしてしまうことになっても私たちがこの方法を変えないのは、和食において温度こそが料理の命ともいえる最も重要な要素だからです。

 和食は伝統的に、食材の新鮮さとその持ち味をそのまま活かす工夫を大切にしています。魚の身がふっくらと解ける瞬間の柔らかさや、箸を入れた時に中からじゅわっと滲み出るジューシーな脂、そして玉子焼きが持つふんわりとした優しい食感と立ち上る湯気。これらはすべて、火から下ろされた直後のわずかな時間にしか存在できない儚い美味しさです。どんなに優れた保温技術があっても、時間が経てば水分は失われ、素材の輪郭はぼやけてしまいます。こだわり抜いた繊細な味付けも、最適な温度で食べていただいて初めて真価を発揮するのです。

 「効率よりも、とびきりのおいしさを」。この一見すると不器用な姿勢は、明治19年に誕生した西洋料理店「彌生軒」の時代から受け継がれてきたおもてなしの精神そのものです。時代が変わり、どれほどテクノロジーが進化しても、人を本当の意味で笑顔にし、しあわせな気持ちに変えていくのは、こうした目に見えない場所での丁寧な手仕事と、食べる人を想う真心に他なりません。儚く消えてしまう「美味しい!」のために、私たちは今日もキッチンで最高の火入れを追求し続けています。お待たせした時間の先にある、焼きたてがもたらす至福のひとときを、どうぞ心ゆくまでお楽しみください。